なぜ山に登るのか? 信念 東浦奈良男 一万日連続登山への挑戦 書評

世の中には想像をはるかに超える人達がたくさんおります。
今まではテレビや本などのメデイアを通してでしか知る機会がありませんでしたが、インターネットを使うようになってからそんな凄い人達が私と同じ一般の方の中にもいることがわかりました。
例えばヤマレコやヤマップのログをみると1日でありえないほどの長距離を歩いている方、日帰りは無理とされているルートを驚異的な速さで1日で歩ききってしまう方など。
最近では三浦雄一郎氏がエベレストに史上最高齢で登頂し話題となりましたね。
今回紹介する本ではそんな超人を取り上げております。

内容について

定年退職後に連続登山1万日を達成するべく、毎日山に通う男性
「東浦奈良男」氏を取材したノンフィクションです。
登る山は地元の低山である「朝熊山」(三重県伊勢市・鳥羽市にある山)がメインであり,エベレストやK2のような登頂が難しいとされている山に登っていたわけではありません。
しかし同じ山とはいえ、登山道はもちろんバリルートや獣道などの道無き道を自力で切り開き、登っていくのです。
もちろん、バックにスポンサーがついていて目的を達成したら莫大な報酬が出るというわけではありません。
ただ、自分のために登るのです。


東浦奈良男の驚異の装備と生活

そして東浦奈良男氏の装備も凄いのです。
もう表紙からして只者ではない、仙人のような風格を漂わせておりますが
この服装は全て自分のお手製です。
物干しハンガーとレジャーシートを組み合わせたお手製のザック
食料も水も全く持たず、雨の時はビニールシートをかぶるだけ。
靴も登山靴ではなく、気になる部分を切り刻んだただのスニーカー。
ビニールシートを貼って完全防水にした傘
これだけです。
登山の常識の真逆を行くこのスタイル。
何も知らない人から見れば
「山をなめるな」
と言われそうな装備です。
しかし、これこそが奈良男氏のこだわりなのです。
一般的な常識には囚われず、自分の納得いくように装備を手作りして完成させたスタイルなのです。
これが奈良男氏にとっての一番快適な登山スタイルなのでしょう。
とはいっても私を含め、多くの方はまず真似できそうにないスタイルです。
そして1万日連続登山を決めてからというものの一日は山へ登る、日記をつける、本を読む、食事、寝る。
主にこの5つのサイクルでまわっております。
食事は1日2食であり、50年も前から自然食専門店で食材をとりよせて自炊しております。
そば粉ときな粉を入れたどんぶりに自分で摘んで作った薬草茶を注いだものがメイン。
おまけにタバコも酒も一切やらないそうです。
さらに連続登山を一度決めた後はたとえ体調が悪くても、天候が悪くても必ず山には行くと徹底しております。
では、なぜそこまでして山に登るのか?
そこを突き詰めれば、「山が好きだから」という答えが浮かび上がってくると思いますが、これはタイトルにもなっている
「信念」そのものだと思うのです。
定年退職した後、特に仕事一筋だった人は何をやっていいかわからなくなるといいます。
だからこそ、何か目標を持つのが大切だと聞いたことがあります。
奈良男氏は山が好きだったため、1万日毎日山に行くという壮大な目標を立てたのだと思います。
そしてその目標はやがてそれが何よりも自分にとっても正しいものであるという信念となっていったのだと私は感じました。
奈良男氏の信念を感じさせる部分は本編にいくつも出てきます。
体調が悪くなっても自然治癒にこだわり、病院に行くことや治療は一切拒んでいたと言います。
それも決して自分の意思を変えない、信念そのものです。
正直、家族や知人達にとっては迷惑だったところもあるでしょう。
ですが第三者からみるとここまでの強固な信念やストイックさはある種のかっこよさすら感じてしまいました。

まとめ

本文中で特に印象的だった一節はこちらです。
登山が毎日になったら最高の趣味に思えるかと心配しているが、もはや趣味を超えて人生そのものとなっているのだ。
登山はあくまで趣味
プロの登山家をのぞけば大多数の方はそうでしょう。
しかし確かにこちらの奈良男氏は趣味の領域を超えて人生そのものとなっていたと言えます。
結局、体調を崩しある日を境に連続登山はストップしてしまいました。
そして容体は回復せずに86歳で奈良男氏は亡くなってしまいました。
目標を達成できなかったことは残念だったでしょう。
しかし、体が動ける限りは山に通い続けられたことには満足していたのではないでしょうか。
それはすなわち、信念を最後まで曲げずに貫き通せたということですからね。
ちなみに連続登山の記録は9738日。
1万日は達成できませんでしたが、この記録でも十分すごいことだと思います。
恐らく、奈良男氏以外には達成できないことでしょう。
長くなりましたが山好きならばもちろん、ノンフィクションの読み物としても面白いので誰にでもお勧めできます。
奈良男氏まではいかなくても「もっとストイックに生きたい」と思わせる影響力のある内容でもあります。

 

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みくぞう

山の魅力にとりつかれたソロハイカー。 山には主にトレーニングで登っています。 最近はトレランがメインになりつつありますが、ハイキングもあいかわらず好きです。 気づけば山や温泉のことばかり考えているようになったので、細かく役立つ情報を発信していきます。

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